『私はたゆたい、私はしずむ』感想

 しばらく前に、本屋に行って何となく買ってから積読にしてた本が結構ある。それで今日、バイト先で時間があったのでそのうちの一冊、石川智健氏の『私はたゆたい、私はしずむ』を読んだ。

 ミステリもので、あらすじ、というか物語の導入は以下。細かいところとか説明変じゃね?って所はまあ本読んでもらいたい。立川で刑事をしている薫とその後輩の赤川が、出張的な感じで八丈島で2週間仕事することに。非番の日に赤川が、アホウドリで有名な無人島、鳥島に行こうと誘う。赤川の友人である民俗学者の勝木が調査したいことがあるとのことで、道楽ついでに付き合う。島に着いたはいいが台風の影響からその日にヘリの向かいが来ないことが分かる。夜には風雨が止んだが、海に浮かぶ古びた豪華客船が停まっているのを見つけ、何か困っている人がいるのではと3人は救助ボートで様子を伺いにいく。その客船には7人の若者がおり、話を聞くと彼らはその船の客人ではなく元々乗っていたクルーザーが故障したためたまたま見つけた客船に乗り込んだ。しかしなんだかその船の様子がおかしく、話をしているうちに客船に閉じ込められてしまう。そしてその中で殺人が起こる。一緒になった7人の様子も少し普通とは違うようで…?みたいな。

 

 ストーリー展開としてはミステリによくある密室っぽいなという感じ。海、民俗学者、客船ってことで、海に関するオカルティックな話がキーワードになってるのが面白い。主人公の女刑事、薫の視点で話が進むが、三人称っぽい描写が多く刑事らしい冷静な洞察があるから、こちらとしてはミステリらしい緊迫感というよりは、この後どうなるのかなとかこれはどういう意味なんだろうみたいな分析したい気持ちの方を強く感じた。

 客船で遭遇した7人の若者はいわゆるお金持ち、社会的地位の高い成功者のグループで、ちょっとというかだいぶいけすかない。彼らがどうなっていくのか?っていうのが醍醐味なんだけど、いやもう典型的なお金持ちの嫌な奴ばっかりで全員どうにかなれよとは思っちゃった。なんというか金持ちへのルサンチマンを感じる。どうにかなれと思う自分自身もそうだけど、これは作者さんがそう思ってるのかそれともそう思わせたくてこう書いてるのかとかそういう邪推が挟まってしまう。いやそう読ませた方が面白いからそうしているんだろうけども。ちなみに主人公の後輩、赤川も実は結構なお金持ちだけど、コメディリリーフでなんとも愛嬌のあるキャラなので、典型的な悪いお金持ちといいお金持ちの対比もあるんだろうな。後は、薫のちょっとした恋愛描写があるけどこれは好き嫌い分かれるかもしれない。ネタバレになるとあれなので詳しくは書かないけど、個人的には別に…という感じ。ちなみに薫と赤川の担当した過去の事件についてちょっとだけ言及があったり薫のトラウマっぽい話がある割にあんまり詳しく突っ込んでないというか、あまり深められてないように思われたので、もしかしたら続編出るのかなと。2021年7月刊の新刊で書き下ろしなので、ワンチャンあるんじゃないか。

 

 全体的にはとても読みやすいミステリで、めちゃくちゃ奇想天外なことが起こるわけでも大どんでん返しがあるわけでもないけど、伏線が丁寧ですんなりと頭に入ってくる。いや突如現れる豪華客船や若者7人に起こる出来事の謎は人によっては衝撃かもしれない。でもそれも最後の方読みながら、あの描写ってそういうことだったのかってなるし、読み返したら結構分かりやすくなっていると思う。サクッと読めて、ミステリ初心者さんに特にオススメです。